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日々の妄想の墓場。
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一回文章書いたんですが、どっか間違って消したようです。
まぁ大したことは書いてなかったので別に良いのですが、一度書いたものがうっかり消えるという感覚はなんとも言えず寂しいものです。
甘いものが食べたい。







続きに時代劇小説です。今回は書くのに5、6時間はかかった。なので長いです。

出たキャラ、出したいキャラの自分メモ

時代:約江戸時代の中期~後期頃
金:一両=今の一万円ぐらい。大判=今の七万円から八万円ぐらい。
町民の一年の稼ぎは大体200両かそれより少し上ぐらい。
職人だと250両かそれより少し上ぐらい。
実際の所よくわからない。

狐<きつね>(配役フォックス):二代目稲荷神眷族の神使で400歳以上だが見た目は若い青年。輪が好き。失踪した先代(ジェームズ)を探している。普段は人間に化けている。子狐丸という小刀が親の形見。

輪<りん>(配役トワプリリンク):狼の娘。半神。母親は道主日女命。現在は父親と二人暮らし。世間知らずの箱入り娘。

狼<おおかみ>(配役ウルフ):刀鍛冶。輪の父親。過去に失った弟子達の安否を気にしている。スサノオに道主日女命を取られ、その後輪のことを思って人間の世界へ。人間の住む街中に輪と2人で暮らしている。

山神<さんしん・やまがみ>(ドンキー):日吉の祟り山の主。現在行楽中。

山神<↑同文>(ディディー):若い山神。ドンキーに代わって山を治めている。

宿曜師<すくようし>(配役カービィ):密教の宿曜日道占星術(すくようどうせんせいじゅつ)を行う者。要は曜日占いする人のようなこと。陰陽道と対立したため現在は数少ない。現在は世俗を離れ、祟り山の頂上の大木に住んでいる。

護衛騎士<ごえいきし>(配役メタナイト):宿曜師の護衛。人間かどうかすらも分からない。カービィと共に暮らしている。宿曜師が他人と関わるのをあまり良しと思っていない。過保護。

軍神<ぐんしん>(配役マルス):異国の戦いの神。輪を見染めているが、どこまで本気かわからない。なぜこの国にいるのかも未だ不明。

簪屋織間(かんざしやおりま)の店主(配役オリマー):かんざし職人。店主が寝ている間にかんざしができているという不思議な店。

出すかどうか未定キャラ

高倉下命<たかくらじのみこと>(配役時オカリンク)
琳瑯<りんろう>玉などが触れたって美しく鳴り響く様。(配役同上)
霖雨<りんう>長雨のこと。(配役同上)

天使<てんし>(配役ピット):異国の者。人間の頃に呪いを受けて半永久的に生きている。人でなくなることを恐れて死にたがっている。

蛇<へび>(配役スネーク):異国の者。戦争に明け暮れていた所、嫌気がし、隠居していた時ピットと出会う。

韋駄天<いだてん>(配役ソニック):神様の郵便配達人みたいな感じ。とにかく足が速い。

陰陽師<おんみょうじ>(配役ポケトレ):闇陰陽師だがどっちかっていうとただの式神使い。日本中を旅して回っている。

からくり師(配役ロボット):町のからくりやさん。だがその実態は・・・・。

茶店の店主(配役ファルコン):おいしいお茶を出すお店。だがその実態は・・・。
注:お茶屋と書くと風俗的な意味になりかねないので茶店と書きます。

その他色々。話は誰々の章的な感じに分けて行こうと思います。




青い空に白い雲とは月並みの言葉だ。
だが本当に自分の上にはそれらしかないのだから、そう言い表すしかない。
自問自答のように思いながら、久々の日中を歩く。
夏の終わりかけとは言え風は大分涼しく、日差しもさして強くない。
秋と言うには穏やかではないが夏の勢いは失われた気風だった。

道を行けばたまにちらちらと感じる視線。
俺様が感じる方へ少し顔を向ければそれは消えてなくなる。
そんなに隻眼が珍しいかと思ったが、そうでもないらしい。
周りの町民がごろつきを避けるような感じで避けていく。
別に何かされない限りこちらとしては何もしないが、面倒なので勝手に怖がってろと心の中で吐き捨てた。

「さて・・・」

隻眼をギロ、と動かして目当てに店を見つける。
前に出歩いた時には店の外見を見ただけだったが、間違いはないようだ。
ざっざっと大股で店に入る。
織間(おりま)と書かれた紺色ののれんをくぐれば、その先は美しい色彩の世界が広がっていた。
机の上から壁まで、ぴかぴかの髪飾りが並んでいる。
普通こんなにかんざしを並べて置いてある所はなく、思わず立ち止まった。

「い~らっしゃい~ませ~」

のんびりとした声がする方を向けば、店主であろう極細目の小さな男が座っていた。

「かんざしが見たいんだが」
「そこに~出してある~のがすべて~です~」

なんとなくまだるっこしい口調で返される。
そこに出してある、と言ってもかんざしだけで七、八十は飾ってある。
そんな中からいちいち探すというめんどくさい真似はしたくない。
というか他の客が来ない内にさっさとこの店から出たい。

「奥様に~でしたら~奥側が~おすすめです~」

言われた通り見れば確かに年増頃の女に似合いそうな落ちついたかんざしが並んでいる。
だがこれでは輪(りん)には落ち着きすぎて返って似合わない。

「妻じゃねぇ。娘用にだ」
「失礼~しました~。では左手側です~」

左側を見たら見たで今度は子ども用の花かんざしが花畑のように並んでいた。
流石に輪は七五三に連れていくような歳でもない。

「・・・十五、六の娘なんだが」
「ありゃ~失礼~しました~」
「・・・あと、もっと凝ったやつとかはねぇのか?」

どうも並んでいるのは俗っぽすぎる。
それも輪にふさわしいとは思えない。
まだあの狐からもらった花の方が似合っている。

「では~こ~いうのは~いかがでしょう~」

よいしょ~と亀のような声を上げて奥へ引っ込む。
かと思えばとっとっとっとと兎のような跳ね具合で小走りしながら戻ってきた。

「どうぞ~」
「なんだ?」

店主が両手に余るほどの長い桐箱を差し出す。
開けば敷かれた白い柔らかな布に包まれた木や金、銀、銅、象牙が入っていた。

「これらで~お客様の~ご要望に沿って~新しいものを~お作りします~」
「・・・じゃあそれで頼むぜ」
「どう~いたしますか~」

箱の中のものをじっと見つめ、一番きれいな色をした象牙を手に取った。

「こいつで平かんざしを。透かし彫りで狼だ。左目に青、右目に紫の石を刻め。牙は真珠か水晶かその辺を埋め込んでもらおうか」
「!ずいぶん~すごいものに~するんですね~」
「・・・今お前の驚いた顔の方が十分凄ぇが・・・できねぇのか?」
「いえ~できますよ~多分~。幸い~材料は~すべてありますので~。ただ~お値段が~張りますよ~」

俺様は懐から一両を十枚出す。
脇差一本分ぐらいの値だ。

「まだ足りねぇか?・・・あとその目玉が飛び出たような顔を止めろ」
「いいえ~これだけあれば~おつりが~きます~」
「そうかよ。で、いつできる?」

こんなに注文をつけたんだ、一か月は先になっても仕方がないとは思っていた。
だが、店主の口から出たのは意外な言葉だった。

「今日~日が~暮れる頃には~できるでしょう~」
「はァ!?」
「お、遅すぎ~ですか~?」

俺様のあまりの剣幕に驚いたらしい。
途端に店主の腰が引けた。

「い、いや。早くて驚いただけだ」
「では~またその頃~お立ちよりください~」
「わかった」

俺はのれんをくぐり再度青空の下に出る。
そのままさっさと大股で店から離れた。
かんざしを選ぶだけなのにえらく肩が凝った気がする。
このまま家に帰りまた出るのも癪に思い、その辺りをふらふらと歩いた。



一方かんざし屋では。

「さて~寝ますか~」

先ほど注文を受けたばかりだというのに、狼が出て行った途端奥に布団を敷き始める店主。
ごろんと布団の上に寝転がり、あっという間に寝息を立てて寝てしまう。
すると、きゅぽん、と栓の抜けるような音を立てて店主の周りの床から赤や青、黄色などの色をした草のようなものが突然生えてきた。
店主は眠りこんだまま、その草を引き抜いた。
引き抜いた先には微妙な人型のような根が付いており、それらはひょこひょこと動き出す。

『あよー』
『ぴぴー』

結局五体ほど引き抜かれ、奇妙なことに先ほど狼に受けた注文のかんざしを作りだした。
それからしばらく後、店主が目覚める夕方頃に完成し、彼らはまた床へと帰って行った。





「ずいぶん店が増えたな・・・」

こうして昼間の町中を歩くのは久しぶりな気がする。
普段はその日に必要な食材を空気が青い早朝の朝市で買うだけだ。
その時は当然普通の店は閉じている。
芝居小屋や呉服屋、食事処など町はそれなりに活気付いていた。
輪はこんな店知らねぇだろうな、と遠い目で様々な店先を見詰めた。
かんざし屋から少し離れたところで、ふっと茶店が目に入った。

「しばらくここで休んでくか」

軒先の赤い傘の下の影に隠れ、赤い敷物の長椅子に座る。
途端、俺の反対側に座っていた男がすぐ立ち上がってどこかに行ってしまった。
俺様はさして気にせず、店の者を呼ぶ。

「ご注文は?」

女が出てくるかと思ったが、出てきたのは男だった。
およそ茶店の主人というより遊郭の主の様な見た目だ。

「・・・抹茶」
「あいよ」

酒、といいたいところだがあってせいぜい甘酒ぐらいだろう。
それぐらいならいっそ普段飲まない抹茶を飲んだ方がマシだ。
さほど待つこともなく運ばれてきた抹茶を受け取る。
ことり、と俺の横に変わった菓子の乗った皿を置かれた。

「菓子は頼んでねぇぜ」
「お茶受けにどうぞ」

そう言うなり主人はさっさと店の中に戻ってしまう。
接客が良いのか悪いのか。
とりあえず、出てきた菓子をひとつ頬張った。
かりかりとした焼き菓子で蜂蜜の味がするものの意外と甘過ぎず美味い。

「これはなんてぇ菓子だ?」
「花保宇留(はなぼうる)さ。南蛮の加須底羅(かすてら)の一種だよ。知らんとは珍しいね」
「普段は食わねぇからな」

抹茶を啜り、もうひとつ菓子を口に含む。
今度はごまの味がした。

「おい、これをもう一皿包めるか?」
「奥方にお持ち帰り?」
「・・・ガキにだ」

にやりとした主人の顔に多少イラッとくる。
どいつもこいつもなぜ妻のことなど聞く。
それとも、そんなに俺は所帯を持ってるように見えるんだろうか。
そう思い返して、自分の姿を見た。

黒の着物に外出用の青の羽織。
きれいに洗われ、必要最小限しかしわの入ってないそれらは、確かに男の一人暮らしではできぬことだろう。
ならば、女がいると見られてもおかしくないか。

「お待ち。保宇留」
「ああ。馳走になった」

残った抹茶を一気に飲み上げ、席を立つ。
そのまま主人に金を渡し、俺は菓子を持ってかんざし屋へと戻った。
時はすでに夕日の沈みかけ。あの言葉が本当ならばかんざしは完成しているだろう。

「かんざし屋」

前と同じようにのれんを払い、店内に入る。

「い~らっしゃい~ませ~・・・」

寝ぼけたような声に脱力しそうになった。

「あ~先ほどの~お客様~ですね~」
「そうだ。かんざしはできんだろうな?」
「はい~この通り~」

縦長の桐箱に入ったかんざしは、間違いなく俺様が言った通りのものだった。

狼の透かし彫り。
右目には紫水晶、左目には瑠璃の石が埋められ、牙は真珠で作ってある。
期待した以上に望みの叶った出来栄えだった。

「いかが~ですか~」
「最高だ」

滅多に口にしない言葉であったが、これには文句無しに言うことができた。

「ありがとう~ございます~」

俺様は箱に丁寧に戻すと店を出る。

「お客さ~ん~お代余ってますが~」
「釣りは取っておけ」

後ろも見ずに言い捨てると家路へ急いだ。
こんなに気分が高揚したのは久しぶりだった。
欲しいものを手に入れるという感触。
ずいぶん昔に無くしてしまったと思っていたが。
風のようにまっしぐらに家へと戻った。




「親分、遅いな・・・」

暗くなる前には戻る、と言っていたのに。
輪は夕食の手を止めて、台所の窓から外を覗き込んだ。
するとすぐにがらっと大きく戸を開く音が聞こえる。

「輪、帰ったぞ」
「あ、おかえり・・・もう夕飯できた、から・・・」
「ああ」

足早に廊下を過ぎ去り、自室に向かう親分。
輪は急いで夕飯をよそって親分の部屋へと向かった。
親分は着替え中だったが、気にせずさっさと戸を開け閉めして盆に食事を並べる。
俺が入ると親分は何とも言えない微妙な顔で一瞬こちらを見たが、別段何を言うわけでもなく着替えを続行する。

「何か・・・?」
「いや・・・(父親とは言え男の着替え中に堂々と部屋に入らせて良いものだろうか・・・・)」

親分が何か思案に耽っている内に俺は食事の準備をすべて終える。

「親分・・・準備、できた・・・」
「ああ」

いつもの服装に着替えた親分が盆を挟んで俺の前に座る。
食事はお互い大概静かに黙々と食べるため終わるのも早い。
後に食べ終わった俺が食器を片づけ、代わりに親分の酒を持ってくる。

「親分、お酒持ってきた・・・」
「そこ置いとけ。輪、てめぇの櫛と鏡取ってこい」
「?・・・分かった・・・」

解せないが親分が取ってこいと言われたら取ってこなくてはいけない。
俺は自分の部屋から唯一の手鏡と櫛を持って親分の元へと戻った。

「こっちに来い」

胡坐を搔いた親分の前に正座すると、くるりと後ろに回される。

「お、親分」
「動くなよ」

低い声で言われ、まるで脅されているようだがその声色はどこか楽しげに聞こえた。
さわさわと親分の指が髪に触れる。
一体何をしているのだろう。妙な不安に胸が鳴る。

「親ぶ・・・」
「よし、鏡で自分の髪を見てみろ」
「髪?」

手鏡を顔の位置より少し高めにして見ると、結った髪に何か挿さっていた。

「親分、これ・・・」
「かんざしだ。きれいだろ」
「・・・だ、誰かにあげるのか・・・?」

今まで親分はこんなことをしたことがない。
まさか新しい女ができてそのために俺を実験台にしたとか・・・。
あまりのことに、頭の中が袋小路のようにぐるぐると回る。

「馬鹿野郎。てめぇにやるんだよ、何のためにてめぇの頭に挿したと思ってんだ」
「え・・・?」
「アぁ?気に入らねぇのか?」
「い、いやそうじゃなくて・・・こんなこと初めてで・・・驚いた。から」
「・・・まぁ、確かにそうだな」

機嫌が悪くなるかと思ったが、何故か親分は機嫌の良いままだった。
改めて鏡でかんざしを見つめる。
細かい細工にきれいな石のかんざし。

「親分、あ、ありがと・・ぅ・・・」

親分から贈られたもの、だと思うと妙に恥ずかしくなり語尾が小さくなってしまう。
親分は親分で生返事を返しながら、何かの包みを俺に寄こした。

「これは・・・?」
「昼間茶店に寄ったからな。そこの菓子だ。食え」

俺はいそいそと包みを開いて中を見る。
そこには見たことのない焼き菓子が入っていた。

「これは、何?」
「花保宇留とかいう南蛮の菓子だそうだ」
「あ、い、いただきます・・・」

かりかりと一口齧れば、程よい甘さが口に広がった。

「おいしい・・・」
「そうか」
「親分は?」
「俺様は昼間食べたからいい」

そう言って酒に手を伸ばす。
こんなに優しいと感じる親分は初めてだった。
本当はなんで突然こんなことを、と聞きたかったが機嫌を損ねられるのも嫌だったから黙って菓子を食べた。

「輪」
「ん、何・・・?」
「明日、花見に行くぞ」
「花見?」
「今の時期に咲く桜がある。てめぇは見たことがほとんどないだろ」
「ない」
「明日弁当作って昼前に出るぞ」
「分かった・・・親分の、好きなもの作る・・・」

かんざしもお菓子も貰えてその上外出もできるなんて。

「・・・何年振りの、外出だろう・・・」

俺は引越し以外ほとんど外に出ることのない。
親分が家にいろというからだ。

「さぁな」
「最後が冬だったのは・・・覚えてる・・・」
「そうだったか?」
「雪の中を、歩いたから」
「・・・そうだったな。てめぇがこけて全身真っ白になったな」
「そ、そういうところは・・・思い出さなくても・・・」

ちょっと恥ずかしい記憶に顔が赤くなる。
俺のことなんてとっくに忘れてると思ったのに。

「俺と住みだしたガキの頃は割と外に出たがってたな」
「そ、そう・・・だったか・・・?」
「母親に会いたいってぎゃーぎゃー騒いで俺様の弟子達を困らせてたろ」
「え・・・し、知らない。覚えてない・・・」

俺はかんざしをずらさない程度に首を横に振る。

「あんまりうるせぇから俺がひっつかんで蔵ン中に放りこんで鍵かけたんだよな」
「・・・・・なんか・・・・その辺は覚えてる、かも・・・」

不意に蘇ってくる記憶。
確かに暗く虫の這っている音が聞こえる中、自分は泣いて謝りながら重く分厚い石の壁を必死に叩いていた。

「余計に泣き叫びやがったけどな」
「外に出たいって言ったら・・・親分が『黙らねぇんなら一生そこで暮らさせる!』って言って・・・」
「そんなこと言ってたか」

杯を傾けながら親分が聞き返す。
蔵に入った辺りは未だ鮮明に覚えている。

「言ってた。・・・だから頑張って、泣きやんだんだ・・・」
「あー。出してやった途端俺様の足にしがみ付いてきたな。ぐしゃぐしゃの顔で」
「また・・・そういうのは、覚えてる・・・」

顔を膨らますと親分はくしゃ、と俺の前髪を柔らかく掴んだ。
静かな瞳をこちらに向け、まるで俺の成長を確かめているようだった。

「・・・菓子食ったら早く寝ろ。明日の準備があるからな」
「分かった・・・」

俺は残りの菓子を味わうと親分の部屋から出ていく。
今日は不思議なことが多かった。
しかも明日は外出、なんだか嬉しいことが続きすぎて罰が当たらないか不安なぐらいだ。
親分が挿してくれたかんざしをそっと抜いて、狐からもらった花が活けてある瓶の下に置く。

「おやすみなさい・・・」

暗い天井に小さく呟いて、俺は瞼を閉じた。









惚れて通えば千里も一里とはよく言ったもの。
夜通し走り、急いで輪(りん)の所に向かった俺は昼前には着いてしまった。
しかもきっちり手土産の菓子まで持って。
ごめんください、と言いかけた所で今日はなんだか店の様子が違った。
普段からあまり開放した店ではないが、今日は全部の戸口が閉まっている。
おまけに店の出入り口には本日休業の立札。
なんだ本日休業って。
恐る恐る、声をかけてみる。

「ごめんくだ・・・うわっ!」
「悪いが、本日は休業・・・狐?」

いきなり戸を開けて出てきたのは輪だった。
だが彼女もいつもと姿が違う。
金色の髪に刺さったかんざしと、普通の町娘のような浅黄色の着物。
こういう格好もきれいだなぁと思いつつ、視線はかんざしに向いた。

「あ、こ、こんにちはお輪」
「狐・・・今日は、父上も休みだ」
「あ、いやいいんだ。小狐丸の様子はとちょっと寄っただけだから・・・これ、お土産!」

シュビッと手土産の月餅の入った包みを渡してなんとか愛想笑いをする。
輪は片手でそれを受け取った。

「あーあのさ、そのかんざしどうしたの?」

きわめて平静を装って聞く。
もし男からもらった、なんて聞いたら俺は俊足で走り去りかねない。

「・・・似合わないか?」
「そ、そんなことないよ!すごくきれい!」

裏返りそうな声を押さえて言う。
本当にきれいなのだ。
細かい狼の細工と石や真珠の埋め込まれた平かんざし。
かなり高価なものと見える。

「これは・・・親分が、くれたんだ・・・」

穏やかに微笑む輪に目を奪われかけたが、彼女から出た言葉に俺は驚いた。

「狼が・・・!?」
「こんなの初めてだが・・・嬉しい・・・」

父親からもらったかんざし。
俺はなんとも言えない複雑な気持ちになった。
男が女にかんざしを渡すのは好意の表れだが、まさかあの狼が娘のためにかんざしを買うとは意外に意外過ぎた。
それもおそらく特注したものとあれば、いったいどんな心境の変化か聞きたいぐらいだ。

「良かったね・・・」
「ああ・・・」

おそらく輪とは真反対の胸中を押し隠しつつ笑う。

「・・・狐、俺は親分と花見に行くが・・・」
「花見?桜なんて咲いてるのか?」

今はすでに夏の終わりである。
桜が咲くはずがない。

「あ、狂い咲きでもしてるの?」
「狂い咲きじゃない・・・この時期に、咲くのがあるそうだ」
「へぇ、珍しい・・・」
「・・・狐も、来るか?」
「いいの!?」
「ああ・・・弁当もある、から・・・」

まったく自分は稲荷というのに現金なものである。
さっきまでかんざし一つでアワアワしてたのに初めて輪と外出できるということに心が躍っている。

「おい輪、準備できたか?」

廊下の奥から低い声と共にすっと現れたのは狼だった。
こちらは普段とあまり変わらない。せいぜい上着を着ているぐらいか。
俺に気付いたらしく、そのまま引き返す。
かと思えば手に小狐丸を持って帰ってきた。

「そらよ」
「わわっ!」

投げて寄こされた刀を慌てて掴む。

「大事なものなんだから投げないでくれよ」
「そんなのも取れねぇようじゃてめぇの目は耄碌してやがるぜ」

相変わらずの口ぶりに俺は思わず小さな溜息が出る。

「今から出るんだ。用が済んだならとっとと出てけ」
「俺も一緒に行く」
「何?」
「親分、俺が・・・良いって、言ったから・・・」
「・・・まぁ輪が言うなら、いいぜ」
「流石狼の親分。太っ腹ー」
「うるせぇ、てめぇが荷物持てよ」

狼は輪に近寄るとぼそぼそっと何かを唱えた。
するとあっという間に輪がその辺の道を歩く人々と変わらない姿になる。
少し金色掛った黒髪に同じく僅かに青み掛った瞳。
こういう輪も悪くないと眼福していたら輪があまり見るなと顔を背けた。

「行くぜ」
「はい」
「了解」

狼はしっかり俺を荷物持ちにしつつ、先頭を歩きだす。その隣には輪。
俺は彼女から弁当やその他諸々を受け取り、最後尾を歩きだした。
まさかの父親同伴の初外出に、俺は何事も起こらないことを願った。
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プロフィール
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酒切フータロー
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自己紹介:
読みはしゅきるふーたろー
よくさけきるとか言われる
紳士なる漢を目指して
女性向け小説メインの
同人活動をしている

現在は関西に仮住い中
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