日々の妄想の墓場。
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そろそろ死にそうな管理人です。
生命の危機じゃなくて精神の危機です。
こう・・・遊びたいとか別のことしたいという欲が・・・。
勤勉というのは環境に縛られてこそ鍛えられるものです。
変にフリーダムな生活してるから・・・。
試験中はネタの天啓が多く降ってくるから困る。
続きに時代劇パラレル。
そういえば草薙の剣と天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)って同じものでしたね。
うっかりうっかり。
今日の小説はちょっとやっつけなので話が分かりにくいです。
すいません。
去っていく彼の背中を見て、唐突に錆び付いた鍵を開くように、古い記憶が蘇る。
永い、永い間封印されていた、していた記憶。
雲の楽園で何も知らずに生きていた頃。
自分には顔の良く似た優しい兄と母がいた。
『あにうえ、ははうえ』
自分を置いてどんどん成長していく兄。
雲をかき集めた部屋から一歩も外へは出してくれない母。
兄が話してくれる外は楽しそうだったけれど、母が危険だと言ったからそれを馬鹿正直に信じていた。
『母上には内緒だけど僕が大きくなったら輪に世界を見せてあげる』
外に出れない自分を不憫に思う兄はよくそう言った。
そんな兄の夢想を聞きながらよく夢を見る。
それが何も無い世界の日課だった。
ある日、母に仕える侍女達の話を聞いた。
兄は『鬼神』なのだと。
危険な存在なのだと。
あんなに、優しい人が。
それからほどなくして危険を見なされた兄と引き離された。
侍女達に押さえ付けられ牢に運ばれる兄。
彼は悪いことなんてしてない。してない、のに。
母はそのことを忘れるように自分に暗示を掛けた。
だが新しい父との暮らしが安定していけばいくほど落ち着いた心がそれを思い出していく。
兄のことは思い出せなかったけれど、母には会わなくてはならないという気持ちが溢れて、とうとう泣き出してしまった。
『母上!母上に会わせて!』
どれだけ泣き叫んでも叶うことはなかった。
とうとう暗く冷たい蔵に入れられて、兄を助けてくれる人はいなくて。
全てを諦めたのはその時だった。
それ以来母のことも兄のことも遠い昔のことと思った。
虚ろな心に与えられる幸せの日々。
それを黙って受け入れることが助けることのできなかった忘れてしまった兄への償いだった。
その苦しみさえも破る時が来た。
初めて強く感じた恐怖と何かを囁く知らない人の声。
それに促されうっかり家という結界の外に出てしまった自分。
気付けば誰かに捕まり、不気味な部屋に押し込まれた。
そこで聞こえたのは聞いたことのない言葉だった。
まるで呪文のような会話。この国の言葉じゃないような。
生きる希望を失いかけた自分を助けに来たのは血に濡れた父。
父はほとんど口を開かなかったが、僅かにその時のことを教えてくれた。
なぜかその日張っていた結界が破れていたこと。
だからあの箱庭から自分は自分の足で外に出ることができたのだ。
自分が去った後、見たこともない翼をもった男が侵入して全てを殺し回ったこと。
自分を助けるために父は何人も斬り裂いてきたこと。
その内、何人か逃がしてしまったということ。
『・・・向こうも俺様と痛み分けしたがな』
包帯に包まれた父は深い溜息を吐いた。
箱庭からでさえしなければ、父の弟子が死ぬことも、父が傷つくこともなかった。
なぜこんなに弱い自分を、みんな守る?
己以外誰も己を責めてはくれない。
恨み事を言う相手がいれば幾許か救われたかもしれないのに。
それからは人間と同じような生活を送り続けた。
たまに父が外出するぐらいで自分からはほとんど外へ出ることはない。
箱庭にいなくてはならないのだ。
出れば、自分に繋がれた鎖が誰かを傷つける。
常に誰かが傷つくことを恐れなくてはいけない。
そんな中、一人顔見知りというものができた。
狐。
へらへらしてて頼りないけど優しそうな男。
彼は楽しかった。
些細な会話の中での温かい言葉。
箱庭にちょっとした風を吹きこむ変わった男だった。
そんな彼を、今、自分は死の渦へと巻き込んでしまった。
走馬灯のように、長い記憶はほんの短時間で巻き戻されたらしい。
意識が戻ってくるように、彼の姿が遠いなりにもはっきりと見える。
狐が飛び込んだ先は龍の巣のような場所だった。
親分が造り出した月夜の世界を割り開くように何度もその閃光が蛇のように唸り走る。
その中心には兄だと言った男、琳(りん)と親分が舞うように闘っている。
自分だけが、何もできない。
ただ見ていることしかできない。
親分が前に素早く踏み込み腕を鋭く突きだす。
琳も同じ瞬間に天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)を振る。
その間にひとつの影が割って入った。
硝子を強く叩き割ったような音が辺りに響く。
「二人とも・・・落ち着いて・・・」
そこには親分の腕を自らの腕の関節で絡め取り、琳の刀を小狐丸で受け流している狐の姿があった。
「っ退きやがれ!てめぇもまとめて殺されてぇのか!!」
「狐さん・・・」
「琳・・・なんで、こんなことを」
悲痛な声。
狐の苦渋に満ちた顔に対して、琳の顔は薄く微笑んでいた。
「妹の輪に、愛と神の呪いを授けるために」
「んな真似させるか、あいつだけは、俺様がずっと・・・!!」
ばちばちっと彼らの足元に雷が走る。
あの状況で一番辛いのは狐だ。
神と神の攻撃の中央で双方の攻撃を身に受けているのだから。
「てめぇだって前に覚悟決めただろうが!こいつが何か仕掛けてきたら斬ると!!」
親分の言葉に狐は顔を伏く。
聞こえたのは弱々しい弁解と懇願の言葉だった。
「ごめん・・・俺にはできない・・・・」
「・・・無様だ、見損なったぜ狐ぇっ!」
親分が反対の手で狐を殴ろうとする。
その手を、琳が止めた。
「父様、この人は私の大事な人なんですから手荒な真似はやめてください」
にこにことした顔で平然と琳が言う。
それがさらに癪に障ったのか親分の殺気が増した。
「俺様の子どもは後にも先にも輪だけだ!いい加減にしやがれ!!」
「ひどい父様ですね」
まるで子どものように笑いながらばっとその場から飛んで離れる。
着地と同時に方向を変えてこちらに向かって走ってきた。
狐ほど速くはないが、強い殺気に当てられて動くことができない。
雷雲を纏った剣が身体を二分にしようとした瞬間、自分の身体は横に突き飛ばされた。
転がって起き上った先に目に入ったのは、左肩から胸まで剣を銜えこんだ狐の姿だった。
雷で焼けた血と肉の匂いが吐き気を催させる。
だが、先に吐いたのは琳の方だった。
真っ赤な液体が飲みこめなかったようにその口から地面へと落ちる。
「り・・ん・・・・・」
「は・・っ・・・・・」
「ぐぅ・・・っ・・・」
ゆっくりと視界を動かせば、彼の後ろには親分が立っていた。
その右手は、琳の胸を貫き天叢雲剣の刃を掌で受け止めていた。
手の動脈を犠牲にしたのだろう、おびただしいほどの血が流れている。
狐の胸肋部から零れる赤と、琳の口から零れる赤と、親分の前腕から零れる赤が地面で混ざり合い血の池と化していく。
狐の肩から剣が抜ければ血の雨が降る。
琳の胸から腕が引き抜けられれば血の滝ができた。
親分の掌から腕にかけての亀裂のような傷からは血の道ができている。
なんで、みんなこんなに傷つくの。
実際にはそんなに時間は掛っていないのだろうけれど、ゆっくりと縺れるようにして深紅の泉に彼らが倒れこむ。
呆然とその様子を見ているしかなかった。
強い吐き気がしてあの赤に踏み込むことができない。
「お、親分・・・」
自分の声に親分がこちらを見る。
ひどい顔色だった。
早く血を止めないと死んでしまう。
どうにか一歩足を動かした刹那、影ができた。
目の前には焦点の合わない眼で立ち上がった兄。
「っ・・・私に・・もう語るな・・・っ・・・声が・・・ぁああああ!!」
頭を強く押さえて琳が振り被る。
ばしゃんばしゃんと胸に穴を開けたままで数歩、ふらふらと進んだ。
「声――――」
不意に、耳鳴りの音が聞こえたかと思うと何かを語るような声が自分の長い耳に聞こえた。
『目の前にいるのは、憎い妹。もう動けないなら、僕が殺してあげる』
「嫌だ、違うっ・・・・!私は、私はぁっ・・・!!」
「琳・・・この、声は・・・・」
血を吐き取り乱しながら目に見えない何かを斬るように剣を無茶苦茶に降る。
この声、どこかで聞いたことがある気がする。どこかで――――。
『そんな血だらけの身体じゃもう無理だよ。もう、休んでいいんだよ・・・』
語り声が止むと同時に流星のような炎弾が降り注ぐ。
突然目の前に広がった炎に足が止まる。
大きな火球が、自分に迫る。
「輪っ!!」
誰かが覆い被さる。
恐る恐る閉じた瞳を開ければ、そこには、自分と同じ顔。
「大丈夫・・・ですか・・・」
「・・・あ、・・・ぁ・・・」
背中を大きく焼け爛れさせた琳がいた。
彼の呼吸がひどくおかしい。
間違いなく、あの炎で致死に達するほどの傷を負った。
さっきまで自分を殺そうとしていたのに。
今でも胸からは赤い流血を溢しているのに。
なぜ、庇った。
「私が・・・間違っていましたね・・・」
「なっ・・・何、を・・・」
「あなたは憎いけれど、愛しい。私のたった一人の妹・・・」
熱い涙を流す優しい顔。
頬を撫でる、冷たくなりかけの手。
「昔のように・・この兄を笑って・・・あんな声に、振り回された・・・兄を・・・」
赤黒い液体が止めどなく自分に降り注ぐ。
後悔と嘆きの声が許しを乞うようにとくとくと耳に沁みた。
「・・・あに、うえ・・・」
「・・・・・・・・り、ん」
兄は薄く笑ったかと思うと、剣を納めて自分から離れた所で立ち尽くした。
否、足を地中から出る手に掴まれていた。
「っもう・・・手遅れか・・・」
「琳っ!!」
血の池に這いつくばったまま、狐が叫ぶ。
必死に琳の方に手を伸ばしていたが届くことはない。
琳は最後の力と言わんばかりに、声高らかに叫んだ。
「我は祟り神となりて、神の呪いと共に黄泉の国へと参らんっ!!」
地中が割れてそこから何本もの腐りかけ蛆の這った手が出てくる。
あれが、黄泉に住まう者達。
血塗れの琳の服を、足を、腕を掴み引きずり込んでいく。
「呪を断ち切り、妹の幸せと・・・大事な人が心安らかに生きんことを願う」
彼の零れた涙が地上に落ちるよりも早く、琳は地中へと引きずり込まれていった。
地響きを失い、異様な静寂が辺りを包む。
色々なことが起こり過ぎて頭がついて行かない。
兄を操っていたあの声は誰。
この惨事で、一体誰が悪いの。
数回瞬いた後、はっと気を取り戻して親分と狐を見る。
二人とも血の池で横たわっていた。
呼びかけても動かない。
血を流し過ぎたのだ。
「待って、まだ・・・死んじゃ・・助けない、と・・・!!」
その後は無我夢中だった。
一体どうやって、何をしたのかもわからない。
気が付けば、朝だった。
いつもの部屋に、包帯を巻いた親分と狐が二人とも壁に体を預けたままこちらを見ている。
寝顔と寝起きの顔を見られたせいか、妙に気恥ずかしくなった。
「起きたか、輪」
「大丈夫?」
「あ、ああ・・・えっと・・・何が・・・」
狐と親分は顔を見合せお互いに苦笑していた。
大きな失態を犯した気になって、むっと二人を睨む。
「な、なんだよ・・・」
「輪が助けてくれたんだろう?」
「そ、そうなのか・・・?」
「・・・違うのかよ?」
「よく分からない・・・必死だったから・・・」
そう、必死だった。
今まで生きてきた中で一番と言えるぐらい。
「まぁとにかく助かったよ・・・あと、その・・・琳のことだけど」
「あれは黄泉の国に堕ちたな。もう、助からねぇよ」
「そうかもしれないけど・・いや、そうじゃなくて!」
狐がもどかしそうな顔でこちらを見る。
言葉を待っているのだ。
「琳は、俺の兄で・・・間違い無い」
「そうかよ・・・」
「俺・・・たくさん、嘘吐かれてたんだろうな、琳に」
「狐が化かされるなんざ、末代までの恥だな」
「うるさいなぁ・・・」
親分と狐が言い合いを始めたので軽く溜息を吐いてその様子を眺める。
二人とも、生きてる。傷だらけだけど、ちゃんと話して動いてる。
そのことが、たまらなく嬉しい。
「あの、親分」
「なんだ?」
「黄泉の国って・・・どうやったら行ける?」
「・・・あいつを助けるつもりか」
親分の声がぐっと低くなる。
牽制するような声色。
「琳は・・・誰かの声に、操られていた。・・・俺も昔、あの声を・・・聞いた気が、するんだ・・・」
「まだ不安の種は残ってるみたいだな、狼」
「ちっ・・・どいつもこいつも・・・言っとくが俺はあのがきは気に入らねぇ」
「親分、お願い・・・俺の兄上、なんだ・・・」
「だからっててめぇを黄泉の国なんざ連れて行けるか」
「じゃあ俺が行くよ」
間髪入れずに言い放ったのは狐だった。
まだ傷が痛むのか呼吸が浅い。
「俺ならいいだろう?」
「・・・勝手にしろ。道は韋駄天にでも聞きやがれ」
さっそく煙管を取り出して苛立たしげに吸う。
怪我の時ぐらい控えた方がいいのに、我慢が出来ないらしい。
「じゃあ、これから俺は琳を助けに行く」
「も、もうか・・・?」
「いろいろ準備もいるだろうからさ!琳は待ってて」
「き、狐・・・っ」
「さっさと行きやがれ」
止める声も空しく、親分に手で払われ狐が出て行く。
言おうとしていた言葉を飲み込み、きゅっと唇を噛む。
少しの沈黙の後、静かに唇を開いた。
「親分・・・俺、強く・・なりたい・・・」
「輪・・・」
ありったけの勇気を出して、願いを口にする。
「もう、箱庭から出たい」
俺の言葉に親分は複雑な顔をしていた。
「親不孝め。・・・だが、やっぱりてめぇは俺のがきだな」
「親分以外の・・・子どもなんて、俺は・・・嫌だ・・・」
そうかよ、と呟いて親分は笑った。
俺も一緒に笑った。
もう箱庭の出口を知ってしまった。
引き返すことも覆すこともできない事実だけが残った場所で、生きていく。
黄泉にさらわれた兄は本当に最後に、箱庭から自分を出してくれたのだった。
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