日々の妄想の墓場。
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お久しぶりの管理人です。
今週はばたばたしたせいかろくな更新もできず7月に入るという始末。
いっそ月一更新にでもした方が閲覧サイドの手間が省けて良いのじゃないかとも聞いてはおります。
だが元々の性分に期限を守らないという惰性があるが故にそうすればより更新が失せて行くものかと思い現状に至るわけであって。
毎日パソコン開けないというのが今と昔の更新率の差だなぁと感じています。
感受性も下がっていく一方。こいつぁは笑えない。
亀でも進まないよりはましという奴です。
というわけで続きに時代劇小説。
フォックスの過去の出で立ちみたいな。
しとしと、しとしと。
優しい雨の降る音が聞こえる。
風が吹いていないから垂直に落ちてきているのだ。
しとしとしとしとしと。
眠りを誘う音のせいか瞼が開かない。
布団の温かみが冬の始まりの冷たさを教えるようで身体も起きない。
しとしとしと、ぱたん。
隣の部屋から扉の閉まる音がする。
まどろむ瞳を開けば、視線の先の襖が僅かに開いていた。
狼と、お輪と、琳が輪になって座っているのが見える。
何を話しているんだろう。
俺にも、聞かせて。教えてくれ。
その言葉は声にはならなかった。
「狐さんはまだ目を覚ましませんか」
琳が先ほど部屋に入ってきた輪に問う。
「まだ、だ・・・よく、眠っている」
黄泉比良坂(よもつひらさか)から狐を背負ってきた琳は目を伏せながらそれに頷いた。
姿を戻すためとはいえ大分多くの精気を奪ってしまった。
その時の琳に、先のことなど選べるはずがなかった。
とにかくどこかで狐を休ませねばならない。
脳にすぐさま過ったのが父と呼べぬ父、狼と妹の住まいだった。
「ご迷惑を」
「・・・構わない」
どこかぎくしゃくした兄妹の会話に狼の杯を置く音が入り込む。
彼はまだ自分の手の届くところに刀を置いたまま、琳を見詰めていた。
「おい」
「何でしょう父様」
「俺様の『やや』はそこの輪だけだ。気色悪ぃ呼び方をするんじゃねぇ」
心底嫌そうな顔をして煙草に手を伸ばす。
それに対し琳は顔色一つ変えることなく失礼しました、と口先の謝罪を述べた。
「では、天目一箇神(あめのまひとつのかみ)。何かお訊ねすることでもありますか?」
「おおありだ。前にてめぇを唆して輪に火の球を食らわせようとしたのは誰だ?」
「お、親分?」
「言いにくいことを正面からよく訊ねますね」
あの謎の声の主。
幼き頃、輪に恐怖を味合わせ、世を儚んだ琳を憎しみで甦らせた。
あれは一体誰だったのか。
「正直に申しますと、私にもわかりません」
ただ、と琳が言葉を続ける。
「曲がりなりにも神である私を唆したのですから、同等かそれ以上の言霊の力を持っているでしょうね」
「・・・もうひとつ、なんでてめぇはあの狐にこだわる?」
言葉とともに出た紫煙が部屋に漂った。
その煙はふわふわと琳に纏わり消えていく。
「私が神で狐さんの父と面識がありました。後はただの、偶然です」
出会いこそ切っ掛けがあったとはいえ心動かされたのはその人となりにある。
気が付けば狐のことを深く、とても深く愛していた。
親たちが紡いできた『愛しても愛されぬ』という呪いが発動してしまうほどに。
けれど狐は迎えにきて、そして連れ帰った。
琳の呪に終止符を打ってくれたのだ。
そうまでしてくれた人に、こだわらない方がおかしい。
「私からもお訊ねしたい。狐さんはただの稲荷の使いではありませんね」
「てめぇがそれについて知る必要はない」
煙草の灰を鉢に落として狼は目を逸らす。
普通の者ならそこで話を打ち切るだろうが、琳は切らなかった。
「彼は霊獣、しかもこの大陸では珍しい種ですね」
ぴくり、と狼の耳がが反応する。
「狐霊は尾が九つあれば妖狐、ですが神に近づけば尾は減っていくという―――」
「狐は・・・ただのお稲荷の使いじゃない・・・のか?」
今まで稲荷の使いだと思っていた輪には高位の霊獣と言われても違和感があるらしい。
輪からの問いかけの視線もあり、狼はしぶしぶ口を開く。
「大分、昔の話だ」
しとしとと降り続く雨の中、静かに狼の昔語りが幕を開けた。
――それは遥か過去のこと。
広大な大陸に空を越すかのような霊峰があった。
雲と暮らすようなその場所に、希少な霊獣の一族が住んでいた。
地上には空狐、天狐と呼ばれる強力な狐から離れ、ひっそりと暮らす者。
――もはや何の文書にも残ることはないが、当時はそれを星狐一族と呼んでいた。
一族は様々な力を以て住みにくいその場所に仙人のような暮らしをして生きていたという。
強い霊力で姿を保ち、少数で寄り添い長い時を生き永らえる。
――それらは鬼を育てることができたという伝説もある。
それ故に他の妖魔や、戦をする人間すら狩られ始めたという。
狐の父はたった一人の子を連れて逃れに逃れ、隣の大陸である今この地、日の出ずるこの島国に辿り着いた。
「その時たまたま出会ったのが俺様だ」
眼帯を撫でながらふ、と黄昏の表情で煙草を吸った。
最初は変な男だと思ったが、種の存亡と我が子の命に真剣だった。
そのどちらにも狼には通じるものを持っていたため、異国の狐の話を聞いたのだ。
「稲荷に仕えることを勧めたのも、隠れ蓑になると思ってだ」
――そのために狐の父を天上に上がらせ稲荷神にその身を捧げさせた。
「私が出会ったのもその頃だったのでしょうね」
「・・・霊獣の力を抑えるために俺様の血を分けてやりもしたな」
――狐の父は我が子のためとあえて天目一箇神の血を持ってその力と記憶を封印したという。
恐らく、彼の子が一族の最後の生き残りではないかと、狼はその時思ったそうだ。
最初からこの地の稲荷神に仕える神使の狐として生きよ、と。
だが、父親を恋しく思う心までは忘れてしまえなかった。
「だからあの馬鹿狐は今になっても親父を探してやがる。祟り神になんざならねぇのにな」
その人はすでに清浄なる天上の世界に居るのだ。地下にいるはずがない。
不意に琳が目を細め、疑うような視線を狼に寄こす。
「なぜ、狐さんにそのことを黙っているのです?」
「あれの親父との約束事だ。『何が何でもこの世で生かせること』を頼みたいってな」
「その条件で引き換えにしたのは、あなたの生活の安全ですね」
「そうだ」
平穏に暮らすために計らってもらう。
己の身のために狐には見つかることのないものを永遠に探してもらう。
非道と言えば非道だが、等価交換とはそういうものだと狼は割り切った。
「そういえば・・・狐と知り合った頃から、何も問題が起きなくなった・・・」
ぽつりと輪が零す。
一人だけまた何も知らなかった、と言わんばかりに狼を複雑な表情で見詰めた。
「もうひとつ、訊ねることがあるぜ」
「何でしょう?」
「狐はてめぇの血を飲んだか?」
ぴちゃん、と軒先の溜まった雫が零れて大きく跳ねた。
「恐らく、ほんの少量程は」
黄泉比良坂で生皮剥がれた状態の琳と接吻したのだ。
その可能性はなくはない。
「認めたくはねぇが俺様とてめぇで繋がりがあるなら封印が解けたかもしれねぇな」
「・・・そんなに簡単に、解けるもの・・なのか?」
「輪、血の封印というのは血以外のものでは解けない分、その血には滅法弱いものですよ」
とはいえ、と琳は続ける。
「私と輪は元は我が母が勝手に孕んだ子です。血もどこまで通用するかは分かりません」
「・・・封印が解けるってことはまた霊獣の胆を狙う輩が現れるってことだ」
しとしとしと。
雨足が絶えず家を囲む。
それに紛れて『既に』忍び寄ってきている。
「狐さんは私が守ります」
琳が薄く笑って己の剣に触れた。
天叢雲の剣にある龍の頭を撫でて、狐の眠る部屋に視線を向ける。
「私は守り癖があるんでしょうか」
「かなり重度のな」
「・・・兄上のは、癖と言うより性分だ」
輪の言葉に3人で喉を鳴らして笑う。
彼らのその手には既に剣が握られていた。
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