日々の妄想の墓場。
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今日も昼までうだうだしてました。
友人と遊び終えた途端、古都に戻りたくなりました。
いやまぁ実家っていろいろ気を使うから・・・。
うかつに小説も見る書く出来なきゃ動画サイトも回れないという我慢のし通し。
12日には戻るので更新はそれからになります。
続きに時代劇。
落日の日が窓から差し込む。
秋の夕方は釣瓶落としと言うだけあってすぐに暮れてしまう。
窓から見える一番星を隠すようにキセルの煙を吐いた。
「・・・親分、風呂と夕飯どちらが、いいか・・・?」
戸を顔の半分ほど開き、青い瞳をこちらに覗かせている。
「狐が来る、てめぇは風呂でも入ってろ」
「そうか・・・じゃあ、そうする」
小さく頷くと輪(りん)は戸を閉める。
ぱたぱたと去っていく足音が絶えた後、もう一度キセルを吸った。
「・・・気付いてやがるな」
輪は俺様と狐が自分に聞かれたくないことを話すのだと。
溜め息の混じった煙を吐き出し、隻眼の瞳を閉じる。
その途端、気配を感じて目を開いた。
窓に手をかけ覗き込んだ先に見えたのは、狐。
「・・・?」
一瞬窓の外に感じた気配は、神族の気配だった。
だが見てみればいたのはいつもの狐。
首を傾げる暇も無く、すぐさま狐の声が玄関先から飛んできた。
入れ、と声だけ飛ばしておく。
「・・・狼、来たけど」
案内するまでも無く多少の足音の後、狐が姿を現した。
どことなく、疲れているようにも見える。
「どうした、てめぇ」
「いやちょっと・・・それより話って?」
「てめぇが前にほざいてたことだがな」
「前・・・?」
狐が首を傾げる。
覚えてないとは言わせねぇ。
「輪に兄がいるだのどうだのだ」
「ああ、あれ。あれは別に・・・」
「いいから話しやがれ!」
キセルで狐の手前の床を強く叩いた。
打ちつけた床板に、小さなひびが入る。
狐も目を丸くした後、やれやれといった感じで話し始めた。
「あの花見をした日、俺はご神木の下で寝てただろ」
「ああ」
「寝る前に俺は輪に良く似た男の人に出会ったんだ」
「輪に、良く似た・・・」
眉間に深い皺が入るのが分かる。
輪の外見は母親譲り。
それに良く似た、となれば。
「名前も同じで、妹を探しているんだってさ」
「・・・他に特徴は」
「あとは雨が苦手、とか役目を失った神らしいよ」
叩きつけたキセルを箱に戻し、髪を掻き上げた。
その手が眼帯に触れ、僅かにその下の脈の動きを知る。
「そうかよ」
「・・・なぁ、なんで俺にこんな事を訊くんだ?」
「・・・そいつ、妹を探してるんだってな」
「ああ。自分によく似てるって言ってた・・・・・なぁ、狼、まさか」
空気が張り詰める。
全てが止まったような空間で、互いの瞳だけが焦点を合わすかのように動いた。
おそらく、間違いは無い。
「そいつは輪の兄・・・スサノオの息子だろう」
「そんな・・・じゃああの噂は・・・」
「噂?」
はっと狐が口を押さえる。
俺様はその首元を掴み、鋭く睨みつけた。
「言え、何を聞いた」
遠くで水の跳ねる音がする。
輪が湯船に浸かっているからだろう。
「・・・道主日女命(みちぬしひめのみこと)の娘を、スサノオが狙ってるらしい、っていう噂」
ぱっと俺様の手を払い除けて狐が軽く咳き込む。
「・・・狼、すごい形相になってる」
「うるせぇ!」
「・・・もしそうなら、彼は・・・琳(りん)は俺達の敵になるのか?」
「そいつが輪(りん)を狙ってるんならな」
言葉にした途端、このまま暴れだしたいほどの怒りがこみ上げてきた。
この俺様からこれ以上何を奪う。
女を奪い、人間のひしめく場所に落とし、これ以上何を。
「狼、琳にそのこと話してもいいか?」
「アぁ?」
「彼に敵か味方か、ちゃんと訊きたい」
「もし敵だったらどうする」
狐は顔を伏せて黙り込む。
こちらが溜め息を吐き、数秒の沈黙を作った。
「・・・彼を、止める」
お世辞にも澄んだ声とは言い難い声。
奴の中での苦渋の決断だったのだろう。
だがそう言い切ったからには俺様も躊躇いはしない。
「お輪のこと、俺好きだし」
へらっとした、だが同時に泣き出しそうな情けない顔で笑う。
「・・・父親の前でよくそんな口叩けるな」
「潔いだろ」
「次言いやがったら溶けかけ刀を口に突っ込むぜ」
苦い顔をして狐が自分の口を押さえた。
笑っていても、こいつも人を失うことを恐れている。
「話は済んだ、帰れ」
「いきなり!?まったくお茶の一杯も出さないで・・・」
「そんな上等な客のつもりかてめぇは」
憎まれ口を叩き合いながら狐は腰を上げる。
そろそろ輪も風呂を上がる頃だ。
万一鉢合わす前にとっとと返した方が良い。
面倒だが玄関まで共に出てやることにした。
「狼、じゃあまた」
軽く手を上げると日が沈みきった町へと走り去って行く。
俺様が戸を閉め室内へと振り返れば丁度輪が出てきた。
「あ・・・狐、帰ったのか」
「・・・その格好で会うつもりだったのか」
げんなりしながら問う。
輪の今の姿は浴衣の様な布を引っ掛け、帯で腰元を留めただけだった。
いくらなんでも、男の前に出ていい格好じゃない。
「だって・・・熱い・・から・・・」
「すぐ冷える。服ぐらいちゃんと着やがれ」
輪を追い越し、部屋へ向かう。
数歩歩いた所で輪が追いかけてきた。
「・・・・親分」
「なんだ?」
「狐と・・・何、話したんだ・・・」
「・・・てめぇのことだ」
「俺の・・・」
不安そうな声が返ってくる。
自分の知らないところで自分の事を話されれば、そう思いもするだろう。
「おい、輪」
「な、何・・・」
「どこにも行かせねぇからな」
「あ、ああ・・・?」
言った後で途端にむず痒い気分になり、早足で部屋へと戻る。
「輪、飯と酒だ!」
「っはい!」
廊下で俺様と輪の声が響く。
これで、いい。
何も変わらず、穏やかなことが幸せであれば。
悲しさも悔しさも、分からなくたっていい。
楽園までいかなくても、箱庭の様な暮らしの中で生きていれば。
「俺様は・・・間違ってねぇ」
月が浮かび始めた空を窓から覗きながら呟いた。
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