日々の妄想の墓場。
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時代劇小説は漢字間違いが酷いなぁ・・・。
記念すべき(でない)20話目です。
春ぐらいにはまとまったやつを出すつもりですが・・・気付けば量が大変なことに。
ブログはまめにまとめないといけませんね!
続きに時代劇小説。
何度も戸を叩く。
いつもなら軽い音を立てて開くはずの玄関は今はびくともしない。
この先で――血を、流している人がいるのに。
「琳(りん)!この結界を・・・解いて!」
一際強く拳を打つ。
それでも戸は音一つ立てない。
どうしようもない無力感に、輪(りん)の膝がずるずると、その場に落ちていく。
「兄上・・・」
はた、とその兄の言葉を思い出した。
『血の封印とは血以外で解けない分、その血には滅法弱いものですよ』
「結界は術だろうけど・・・」
輪は意を決して自室に入り、裁縫用の鋏を持ってくる。
「これで・・・」
刃に指を沿わせて裂傷を作る。
赤い珠は白い指先でぷくりと膨らみ、今にも弾けそうな実になった。
その実を押し潰すように戸の取ってに手を掛ける。
「開け!!」
力強く引っ張った扉は、大きな音を立てて外界と通じた。
「輪!?なぜ結界を・・・!」
飛び出した輪に真っ先に気付いたのは結界を張った当の本人である琳(りん)だった。
少し離れた場所に狐とあの血を流している誰だか知らない2人がいる。
「親分は!?」
「っいいから下がっていなさい!」
「嫌だ!」
家の中に押し戻そうとする琳に輪は抵抗した。
もう自分一人だけ、何もできないでいるのが嫌だった。
琳を押し退け、目に入ったのは異形の化け物と戦う狼の姿。
だがすぐさま琳に玄関の中へと押し込められてしまった。
「蜥蜴・・・!?」
「あれは異国の氷竜です。危険だから下がっていなさい」
「けど親分が・・・っ!」
琳が口を再度開こうとした瞬間、琳の後ろに狐が飛び込んだ。
その背には桃色の髪をした少年が担がれている。
「輪!この子を頼む!」
突然突き出され、訳も分からないまま少年を受け取った。
ぐったりして血からの入っていない身体なのに妙に軽い。
それをしっかりと腕の中に収めた途端、空気の抜けるような音を立てて少年は桃色の球体になってしまった。
「うわっ!お・・おい、狐・・・!」
「俺の友達だ、手当を頼む」
言うが早いか狐はまた赤の水溜りの方へ走っていく。
「輪、狼が敵を引きつけている間にこの子を手当しますよ!」
「え、あ、あぁ・・・」
琳が真剣な顔で呪文を唱える。
気を与える術なのだろう、桃色の球体はゆっくりと呼吸を繰り返した。
とくとくと手に伝わる鼓動にとりあえず助かったということだけは分かる。
「ヘイ!何だか大きな事になってるな!」
「ちょっと、どうしたのその子・・・」
「韋駄天さん、雷獣さん・・・どうやら竜に追われてきたみたいなんです」
「龍?」
眉を顰めたのは韋駄天の方だった。
四方を守護するものを思い浮かべたのだろう。
「異国の大蜥蜴ですよ。氷竜です」
「火蜥蜴なら相手にしたことはあるんだけどな。狐と狼は?」
肩を竦める韋駄天は意外に冷静だ。
立場上戦うことができない故の達観なのかもしれない。
「狐さんはもう一人を救出に向かっています」
「ってことはおっさんが竜の相手か」
「・・・落ち着いてて大丈夫なの?」
雷獣が輪の中の球体を見ながら問う。
彼もまた、道真公の命令無しには加勢できる立場ではない。
動けるのに、動けない彼らの方がよほど輪より無力感を感じていた。
「ノープロブレム!勝敗は決まってる」
「そう言う事です。さぁ輪、次はもっと重体の方が来ますよ」
「この子、奥へ連れていくよ」
雷獣が球体を預かり家の奥に連れていく。
琳を越して見る外界には竜と狼が戦っていたが、狼の方が優勢だ。
「親分・・・すごい・・・」
「台風の神だけあって、竜を空へ逃がさないように抑え込んでいますね」
どこか眩しそうに狼を見詰める琳に、輪は口を閉ざしてしまう。
ざぁぁ、と雨がより一層ひどくなってきた。
「琳!」
はぁ、と肺に詰まった息を吐き出すようにして狐が玄関間近まで来ていた。
肩に担ぐようにして運ばれた異形の男は先ほどの少年よりもずっと重症にみえる。
琳は輪と共に狐から彼を受け取り、すぐさま雨の当たらぬ屋根の下で止血の術を施した。
「こいつは俺が奥へ連れてくよ」
「ありがとうございます。・・・輪、あなたも奥へいきなさい」
「兄・・・っ琳は・・・!?」
「・・・狐さんと共に狼の加勢を。家と客人を頼みましたよ」
「でもっ・・・!」
言葉を紡ごうとした瞬間、雨音に混じって聞こえたのは狐の声だった。
玄関より少し外に出ている彼は呼んだ。
りん、と。
その声で狐が望んでいるのは、兄の方だと知れた。
同じ名前だけれど、狐は確実に『琳』を呼んでいた。
狐は自分を呼ぶ時、『おりん』と言っているのだから。
兄が韋駄天に異形の男を渡し、狐の元に駆けて行こうとした瞬間。
低空を舞っていた竜が唸り声を上げた。
こちらに気付いたらしい。
狼もそれにつられて玄関に出ている輪に気付き、声を張り上げた。
「家ん中入ってろ!!」
一瞬の狼の気の乱れが竜を抑え込んでいた風の力を弱まらせる。
竜はその隙を突いて舞い上がり、こちらに向かって鋭い氷塊を吐いた。
「琳、お輪!2人とも、逃げろ!!」
「――――あ」
一瞬、何も聞こえなくなる。
時間が止まったような、けれどゆっくりと氷が解けるような早さで視界が変わる。
「狐・・・?」
動き出した時の中で見えたのは、呆然とした表情の兄だった。
その腕の中には、肩や脇腹に氷塊を受けて血を吐く狐の姿。
先ほどの異形の男を手当する時には動揺しなかった心が、ひどく焦り早鐘を鳴らす。
「あ、あに、う・・え・・・?」
兄は目を見開いたまま反応を返さない。
無意識に狐をぎゅうと抱いて狐の耳元で聞き取れない何かを呟いていた。
良く見れば兄の手が震えている。
「・・・り、ん・・・みんなを・・・たのむ・・・」
ひゅうと隙間に入り込むような声で狐が囁く。
息を吐こうとしてそのまま喉に血流が逆気し、血飛沫がびしゃりと琳の青白い顔に散った。
「狐さん・・・」
薄く開いた唇に狐の生温かい血が滑り込む。
途端に、琳から不穏な空気が弾けるように広がって行った。
「なっ・・・!?」
琳は狐に止血の術を施し、輪に狐を任せる。
先ほどの剣幕は失せていたが、左手に握っていた剣がつんざくような声で唸った。
天叢雲剣(あまのむらくものつるぎ)の飾りである龍の身体や頭がぎゅるりと琳の腕に巻きついて行く。
いつしか腕と融合していくように変化するそれは、不気味に映る。
顔のに飛び散ったはずの狐の血が何かの文様に変っていた。
それにまるで仮面をつけたような無表情。
「ワッツ!?何したんだユーは!!」
「い、韋駄天、琳が・・・狐が・・・」
「なんてこった・・・」
すぅと琳は流れる木の葉のように歩いて外に向かう。
外ではまだ狼と竜が激しい争いを繰り広げていた。
ひどく風が吹き荒れ、それに混ざって小さい氷塊が飛び交っている。
「ヘイ、ありゃユーの兄じゃなかったのか!?」
韋駄天は狐よりも琳に驚いていた。
「そ、そうだ・・・けど・・・?」
「あれは・・・鬼神じゃないか・・・!」
「き、鬼神?」
ごくりと韋駄天の喉が鳴った。
ひどく緊張しているように見える。
竜に向かう琳を見つめたまま、言葉を紡いだ。
神は司る力を持っている。土地に使ったり、おっさんだったら鍛冶や風を操る力だな。
だがそれはあくまで神としての力だ。
その力を、心を全て武力に費やしてしまうのが神から変化した鬼、つまり鬼神だ。
これは普通の自然発生した鬼やちょっと悟りを開いた獣程度じゃなれない。
強い力を持った神が何かのきっかけでなるものと言われている。
鬼の中で最高ランク、神の中での武力の最上級クラスが鬼神だ。
そのまま暴れ狂う化け物になりかねないぐらい心を食われる。
「じゃ、じゃあ琳は・・・」
「・・・あれは俺でも止められない。竜を八つ裂きにするぐらいじゃ止まらないぞ・・・」
「どうしたらいい・・・?」
「そもそもなんでああなったんだ!?」
「き、狐の・・・星狐の血が口に入って・・・」
「星狐!?ただのお使い狐じゃなかったのか・・・!」
ちっと苦々しく韋駄天は舌を打つ。
星狐は鬼を育てる力を持っているのだ。
「・・・琳を、止めないと」
「借りに上乗せしとかないとな!」
視線を交わし、小さく頷き合うと勢い良く2人で外へ飛び出した。
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