日々の妄想の墓場。
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
一回書いたのに消えたんだぜ続きの時代劇小説。
ウィンドウを開け過ぎたのが悪かったのか。
しょうがないじゃないか、小説を書く時は辞書を含めて3、4つ開いとかないと。
そんなこんなで続きに時代劇小説。
今回は非常に俺ワールド全開でグロイ!ので気をつけてください。
空気が湿っている。いた、濁っている。
地面から立ち上る嫌な気配にじっとりと汗を掻きそうだ。
辺りには人が立ったまま枯れ果てたような木が無数に立ち並んでいる。
湾曲し、真っ黒で細い木。
それが陽炎のようにぼやける世界で何よりもしゃんと立っていた。
ここは黄泉の国へと通じる、黄泉比良坂(よもつひらさか)へ向かう道。
韋駄天は遥か後ろで別れを告げた。
彼はこの悪夢のような世界がはっきりと見えるらしい。
神だから、と。
死ねばユーにもはっきり見える、と不機嫌な顔で答えた。
「韋駄天には何が見えてたんだろう・・・」
どこまでいっても道の果てが見えてこない。
前に進む足すら曖昧で、土を踏めども確かな感触がない。
それでもこの先には、琳(りん)がいるのだ。
『グッドラック!餞だ!』
韋駄天の言葉が耳の奥に響く。
彼は笑って帰ってこいと言った。
『帰ってきたら宴を開くからな!食材を集めておくからユーは料理を作るんだ!皆を集めて騒ぐぞ、オーケー?』
『あ、ああ・・・分かった』
『食材が痛む前に帰ってこいよ、遅刻なんてバッドだからな!』
『・・・俺の、友達が一緒でもいいのか?』
『オフコース!お披露目の宴だ!ぐずぐずるな!!』
そのまま背中を押されるようにして歩き出してしまった。
あれは彼なりの死の国へ向かう者へと励ましなのだろう。
琳は何が好きだろうか、と異常な世界で日常的なことを考えた。
そうではないと、漂う死の匂いに目を回してしまいそうだったからだ。
「・・・あった・・・」
気が付けば陽炎の中に大きな岩が見える。
視界に収まり切らないほどの壁のような岩だ。
この奥は完全な黄泉の国。
「琳っ!」
岩に触れるとぞくりと背筋が寒くなった。
腹の底が冷えていくような、間違いなく死に対する恐怖が溢れてくる。
それでも岩を何度も叩いた。
これは、扉だ。彼に通じるための。
「琳!俺だ!狐だ!返事をしてくれ、琳!君を、助けにきたんだ!」
叫んだせいで胸いっぱいに淀んだ空気を吸ってしまい、狐は大きくむせた。
舌の痺れる感じが広がっていく。
「狐さん」
大岩の向こうで琳の声が聞こえた。
風に掻き消されるような細い声で呼んでいる。
「琳!俺と一緒に帰ろう!」
「それは・・・できません・・・」
岩の向こうはどうなっているのだろう。
こちらは声が響くのに、琳の声はまるで足元から這ってくるように聞こえる。
「狼も許してくれているし、お輪も会いたがってる!琳、頼む!」
「私はもう・・腐敗しているのです・・・この姿を見せることはできません」
「どんな姿でもいい!琳に会いたいんだ!!」
どん、と一際強く岩を叩く。
何が飛び出してもいい。
こんな岩、砕けてしまえ。
どうか、琳に会わせてくれ。
「そんなに、会いたいのですか・・・」
「ああ、どんなことでもするから」
涙が出そうだ。『死』という存在がすぐ横に立っている。
この世界から早く出たい。岩から手を放したい。
琳と、共に生きたい。
「琳・・・待っているんだ、皆・・・」
琳が黙り込む。
暫くの沈黙の後、這いあがる言葉を聞いた。
「私の肉が腐り落ち、蛆の這う唇に接吻できるなら戻りましょう」
「する!できる!だから、早く―――!!」
地響きを立てて岩が少し、ほんの紙一枚分程の隙間が床と岩の間にできる。
その瞬間、激しい眩暈に襲われ思わず膝を地面に着いてしまった。
何かが濃厚な瘴気と共に溢れだしてくる。
これに中てられれば人間はすぐさま肉体も魂も腐り果ててしまうだろう。
吐き気を堪えて、岩がまた地面へ戻るのを待つ。
ふ、と屈んだ自分の上に影が掛った。
強い腐臭、息ができないほどの悪臭だ。
足元を這いずる蛆やぬめりとした蟲。
腐った肉を纏った足の骨が見えた。
べちょり、と耳を掠めて赤黒い肉片が土に散る。
「り、ん」
「私と共に、歩んでくれますか?」
呪われた姿だった。
葦原で見た彼の姿とはかけ離れ過ぎている。
空色だった瞳は蝋梅のようになっていた。それも半分しか眼球がない。
全身が溶けかかっているみたいだ。
太古の偉大な神が逃げた理由が、今なら良く分かる。
目の前の彼は、『死』した後の世界そのものだ。
生きとし生ける全ての者が必死に見ず知らずでいたもの。
「醜い、でしょう」
表情は分からない。だって、顔の肉は既に崩れている。
半分しかない眼球から薄黄色の液体が吹き零れた。
そこから数匹、蛆が湧き出る。
醜い、どうしようもなく醜く恐ろしい姿だった。
自分の全てが彼を拒絶していた。触れられない。
心の臓が跳ねる。胃の中のものを吐き出してしまいそうだった。
「琳・・・」
「早く、逃げてください。もう分かったでしょう」
結ばれない、と彼は小さく唇を開いた。
所詮格子越しの口付けを望んだのだと、諦めきった声で呟く。
生と死には、ここまで差があるのか。
なんだかとても――――――悲しくなった。
「琳・・・一緒に、行こう」
自分は狂っていたのだろうか。だが所詮は畜生だ。
崩れかけた腐肉を纏ったその骸に口付けた。
彼の体に這う蛆を払いのけ、臓物の味を啜った。
口の端から彼の形を為さない肉や血が零れる。
吐き気がする。
意識が朦朧とする。
きっと彼が俺の精気を吸っているのだと思う。
「ご免なさい、あなたを堕として、ご免なさい」
泣かないでくれ、俺はいいんだ。
顔が見たいのに意識が朦朧とする。
一瞬だけ、彼の顔が見えた。
ああ、琳、やっぱり君は。
綺麗。
PR